農家の持続化給付金に関する雑感

以前に書いたように、個人の農家の持続化給付金の受給要件の判定は、白色申告者も青色申告者も対象月の事業収入と前年の年間事業収入÷12を比較して50%以上減少したかどうかで行うのですが、出荷時期によって申請できないケースがあることや、もともと収穫の無い時期を対象月にして申請するのことが不正受給にあたることへの懸念についての報道がされています。

これらは持続化給付金における農業の青色申告者の扱いが特殊になっていることが関連しています。

まず、申請できないケースとされるのは、特定の期間に年間のほとんどの収入が集中する場合です。例えば、毎年4月~6月に月400万の収入があり、その他の月には収入がない農家が、本年の4月の収入が200万であった場合、農業以外の青色申告者は前年比較で50%以上の事業収入の減少となり、受給要件に該当するのですが、農業の場合は年間収入の1/12である100万円との比較となるため、受給できないことになります。こういった場合、申請は8月以降となってしまいますが、例年収入のない7月を対象月として申請することで受給可能となります。当然、こういったケースは不正受給と指摘されるものではないでしょう。同様のケースで7月~9月に収入が集中する農家が、収入が半減することが明らかな場合には10月を待たずに、6月を対象月として申請することも可能ですが、これも不正受給といわれることはないのではないでしょうか。

なお、農林水産業で公開しているパンフレットにも、年間の売上が一定期間に集中している場合でも、対象とする月は事業の状況により任意に選択することができる旨の記載もあります。収穫がない月を対象月にすることを選択することは事業者の自由ということです。

一方、不正受給とされるのは、上記のようなケースで特定の期間の収入に減少がない(と見込まれる)にも関わらず、例年収入のない月を対象月として申請するケースです。持続化給付金は「新型コロナウイルス感染症等により特に大きな影響を受けている」ことが受給の大前提ですので、影響を受けていない事業者が受給するのは不正とされるのは当然ですが、現在の申請方法だと減少要件に合致して受給できてしまうのです。

この問題は、白色申告者の場合は、農業以外の事業者も同様です。税務に関わる人間としては、白色申告者と青色申告者にある程度の取り扱いの差があるのは一定の理解はできますので、白色申告者は統一して年間事業収入÷12と比較するのはしかたないかもしれません。ただ、農業の青色申告者については、たまたま青色決算書に月別の売り上げがないだけであり、同じ納税意識をもって青色申告に取り組んでいる事業者間で扱いが異なるのは問題だったように思います。

また、農業以外でも月別の収入の増減が大きな事業はあります。こういった事業者でも事業収入がなかった月を対象月とすれば、持続化給付金は受給できてしまいますので、農家だけにそういった指摘がされるのは違和感があります。本来は、不正対策として、今年の年間事業収入を昨年分と比較して増加している場合又は減少額が給付金の受給額以下であった場合は返還するような制度作りがあれば、一定の歯止めがかかったのではと思っています。

対象月の前年の事業収入を自己申告ではなく、前年の税務申告書を基礎として公平感を持たせようとしたのでしょうが、農業の青色申告書に月別売上がないことへの扱いに苦慮して統一感が失われ、事業収入が半減したということを客観的に主張できなくなってしまいました。どうしても税務申告を基礎にしたいのであれば、農業については視点を変え、月別ではなく、青色決算書に記載されている作物ごとの出荷量、販売額、面積等を比較対象として、作付け別で判定するような方法もあったのではないでしょうか。

今回の持続化給付金は、迅速により多くの事業者に給付を届ける必要があったたため、個々の事情にとらわれず、ある程度のルール化を少ない時間でまとめ上げる必要があったのは理解できます。ただ、特定の時期に収入が集中することの多い農業だからこそ、その申請方法についてはもう少し検討をしたほうが良かったように思います。

現在の申請ルールがこのような状況である以上、農家の方々は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けているかどうかに立ち返って必要な給付を堂々と申請して頂きたいと思います。

※以上は私の個人的な見解です。

2020年9月21日コラム,持続化給付金,農業

Posted by mizuniwa